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小気味のいい栓を抜く音が響き、周りの水滴を素早く拭うと、店員は新しい瓶ビールを村田の前に出して来た。
どうやら、予め用意してあった様である。
その提供の迅速さに気を良くした村田が、店員に話題を振った。
「しかしあれだな。あの、白い鰐の絵なんだが……、何て言ったっけ? あの特殊な照明」
「『ブラック・ライト』ですか?」
村田と店員は、壁に照らし出された白い鰐の絵について語り出した。
『ブラック・ライト』。
正式名称は
『ブラックライトブルー式蛍光ランプ』
といい、光化学作用と蛍光作用の強い
315nm※~400nm
の波長域(UVA)を放射するランプである。
※(nm=ナノメートル)
可視光線を吸収し、この波長域の紫外線を効率良く透過する濃青色のフィルターガラスと、紫外線360nm付近に発光スペクトルを持つ蛍光体を使用している。
人体に悪影響を及ぼす紫外線にはそれぞれ、
UVA:サングラス等で遮断
UVB:眼鏡のレンズで遮断
UVC:大気の層で遮断
というそれぞれの対処法があるが、ブラックライトはその内のUVAを放射している。
蛍光塗料を発光させる特性を持つブラック・ライトは、この店の様なインテリア効果等に使われている訳だが、照射されるUVAは肉眼であっても影響は無い。
但し、それは常人に対しての事であり、我々アルビノにとってはサングラス着用等の対策は必要であるが。
……自分が常人とは違うのだと自覚した、幼き日の思い出。
何故、私は皆から気味悪がられるの?
母に問うた時、彼女はただ黙って、私を強く抱き締めた。その意味が解らず、さらに問う私に母は、静かに言った。
「友理絵、貴女は特別な星の下で生まれたの。皆はただ、それが解らないだけ。神様は、貴女がとても素敵な女の子だって事、ちゃんと解ってらっしゃるわ。お母さんだって、貴女の事を世界で一番愛しているもの」
そう言って母は、さらに私を強く抱き締めた。
「そうだよね、私はママと同じ髪と肌と目を持っているものね。私、ママの子供に生まれて幸せだよ!」
全身を小刻みに震わせて、彼女は泣いていた。
そんな彼女は、私が中学に上がる頃、悪性の皮膚癌によってこの世を去った。
父の顔は、見た事が無い。
それからという日々、私はただひたすらにアルビノについての知識を学んだ。
そして──。
人は、『平等』では無い事を悟った。
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