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村田は、旨そうにそれを飲み干した後、左手で口許の滴を拭う。
そして、横目で私をちらりと見ながら、店員に瓶ビールの追加を注文する。
「何だよ。聞いて無かったのか? 友理絵をメインにしたテレビ番組の企画が通ったんだって。だから改めて、ウチと契約してくれって話さ」
そう言って村田は背後に目をやる仕草を見せ、やや大きめな声でさらに言葉を続ける。
「まあ、今度こそちゃんとしたマネージャーをつけるからさ!」
村田の肩越しに、石橋が見える。私は、震える左手でサングラスを外した。
本来ならば薄暗いであろう店内の照明が、昼間の様な明るさで私の目に映る。石橋の、強張った表情がはっきりと見えた。
──テレビ番組?
特番?
『アルビノ・コンプレックス』
……だと?
「……どういう事? もう少し、解る様に説明して」
喉の奥から絞り出す様に、私は言った。
村田は、新たに提供されたビールをまたタンブラーに注ぎながら、その問いに答える。
「だからさ、友理絵達アルビノの存在を扱ったドキュメンタリー番組の企画がテレビ局に通ったんだよ。しかもフジビジョンのゴールデンだぜ? ギャラも恐らく、ドキュメンタリーじゃあ破格の金額を払えると思うからさ。それに──」
またも村田はタンブラーを傾ける。
目の前には無防備な脇腹。
私の右手は、凍った様に動かない。
村田は、空になったタンブラーをカウンターに勢い良く置いて、さらに続ける。
「友理絵だけじゃあないんだ」
私の心臓が跳ね上がる。
村田は、ゆっくりと身体を右に捩り、背後の遊戯台を見てさらに言う。
「……あそこでビリヤードしてる、若いカップルいるだろ。あの女の子がタレント志望でさ、ウチが主催するオーディションに来てたんだ。それでまあ、これは本当に偶然だったんだが……、あの、一緒にいる彼」
私は、言われるがままに遊戯台へと目をやる。
坂本少年は、ビリヤードをしながらも、ちらちらとこちらを窺っている様に見える。
彼の掛けていた眼鏡が、いつの間にかサングラスの様に色付いていた。
──感光グラス?
「──彼もアルビノなんだ」
またさらに、心臓が大きく跳ねる。
思考が、うまく機能しない。考えが纏まらず、村田に対して二の句を告げる事が出来ない。
混乱している。
その時、入口のドアが開き、若いツナギの男が現われた。
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