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村田はまだ、若いツナギの彼を見詰めている。
私も振り返り、彼の姿を目に入れた。
先程搬入したパネルは壁に固定され、彼は脚立に登って天井の照明器具の角度を調整していた。
そして彼は、こちらに顔を向ける。
……おや?
良く日焼けした顔に、見覚えがある気がした。
先程まではサングラス越しだったのもあり、しかもよくよく注視していた訳でも無かったので、今までそれに気付かなかった。
しかし、彼本人に見覚えがあるというよりも……、誰かに、似ているという感覚の方が近いだろうか。
「すいません、スイッチ、入れてもらえますか」
彼のその言葉は、無論私に対しての物では無かった。
その言葉を受けた店員が、壁に備え付けられたスイッチの中の一つを押す。
その瞬間、店の奥の壁に、巨大な絵が浮かび上がった。
──白い、鰐だった。
まさしくそれは、この店の名前に由来する、
『アルビノ・アリゲーター』
の姿に他ならない。
脚立上の彼は、浮かび上がったその絵を確認して、再びこちらを振り向いた。
「OKです。完了しました」
いつの間にかゴーグルをかけていた彼は、そう言って手に嵌めていた軍手を外す。
日焼けしていない白い肌が覗く。
すると突如、村田は動き出した。
私のすぐ側を通り、村田は彼に向かって移動する。
ツナギの彼は脚立から降り切り、床に散らばっていた工具類の片付けに入っていた。
村田が彼に声を掛ける。
「……あんた、息子さんか」
その呼び掛けに反応した彼が顔を上げる。
ゴミでも入ったのか、彼は左目を瞑ってそれを擦っていた。かけていたゴーグルは額に上がっている。
……息子? 誰の?
その時、背後から囁く様な声が掛けられる。
「小鳥遊さん、まさか番組の件、受けるつもりじゃ無いでしょうね」
驚いて振り向くと、石橋が私のすぐ近くまで来ていた。
「え? どういう意味ですか?」
「アルビノを晒し物にする、例の番組企画の事ですよ。僕はその企画に反対して馘を斬られたんだ」
そうなのか!?
しかし何故、石橋が反対するのだ?
「言ってませんでしたが、私の妹もアルビノなんです」
……何と言う事だろう。
この狭い店内に、これ程の偶然があるだろうか。
私。
マスター。
坂本少年。
そして、石橋の妹。
極稀にしか生まれないアルビノの固体が、この店の中に集結している?
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