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どれ位の時間が経ったのだろう。
ただ、一方的に村田を罵り続ける私がいて、村田は不愉快そうに表情を歪め、それに耐えている。
酷く長い時間が経過した様な気もするが、実際はほんの数分だったのかも知れない。
何故かは解らないが、村田は私の罵声に言い返したりはして来なかった。
その内私の言葉も尽きて、奇妙な間が空く。
ふと気付くと、すぐ側にいた筈の穂波と坂本少年は、いつしか遊戯台の方へと戻っていた。
石橋は、変わらず自分の席から横目で様子を窺っている。
ツナギの男は、全ての片付けを終えた状態で、やはりこちら側を眺めている。
店員は、カウンター内で適度な距離を取り、グラスを拭いている。
私は少し、自分の考えを整理してみる事にした。
まず私自身の事だ。
小鳥遊友理絵としては、正直今、混乱している。
あれ程まで強固に抱いていた、村田に対しての殺意。
それは勿論、アルビノという私の体質を面白がって、番組企画という出鱈目な話を餌に弄ばれたのだという失意から生まれた感情に違いない。
しかしそれは私の誤解もあった様である。
村田を殺害する等と言う感情は元より、その後自らの生命を絶とうとまで覚悟したその想いは、既に馬鹿馬鹿しくさえ思える。
石橋悟。
彼は、村田が企画したアルビノの番組自体に反対しており、私と同じアルビノ体質の妹を持つ。同番組に対する妹への出演依頼で村田と対立し、職を失っている。
坂本少年と穂波という少女。
穂波は芸能界に憧れており、自らの意思で村田に接触。
坂本少年はやはりアルビノ・キャリアで、村田から同番組への出演依頼を受けていた。しかし、村田から穂波への対応に何か解せぬ物があったらしく、彼自身はその番組企画に何の興味も持っていない。
そして、若いツナギの男。
彼は、この店の内装を受けた業者であり、現にブラック・ライト仕様の白い鰐を店舗奥の内壁へと取り付ける作業に従事していた。特に村田との接点は無い様に思われるが、村田は先程、彼が
『誰かの息子』
である様な事を口にしていた。
私自身も、何処かで会った様な気もしている。
そして、今日から旅行中のマスターの代わりに店を任されているらしき店員。
彼は恐らく部外者であろう。普段は彼も都内の何処だかで店を経営しているらしいが、村田との接点は無い様に思える。
マスターとの関係は定かで無いが。
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