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相当狼狽した挙句に、江田島は本来見せるべきメール画面を正確に呼び出し、新庄へと再提示した。
再び携帯を受け取ると、新庄は一目見てすぐにそれを優花に手渡す。
「優花、この文面を転写してくれ」
江田島は、そのやり取りを見ながら、そわそわと立ったり座ったりしている。
そんな彼の様子を見て、優花はその携帯を新庄から受け取った。
「お預かりします」
そう言って彼女は、新庄の寝室兼物置(!)へと姿を消す。
優花の後ろ姿を心配そうに見送る江田島に、新庄が声を掛けた。
「江田島さん、うちの助手は勝手に他の文面なんぞ見たりはしませんから。座りましょうよ」
その言葉を受けて、江田島は漸くバツが悪そうに腰を下ろした。
江田島は妻帯者ではあるのだが、彼がマネジメントする所属モデル、坂口麻里亜から好意を持たれているという事情があり、それが先程からの騒ぎに直結していたのだ。
事務所内の面々は、そんな裏事情を熟知していた。
「い、いやあ、大変見苦しい所をお見せしてしまいました。…で、どうでしょう?」
「ダイイング・メッセージですね」
件のメール画面を一目見ただけにも拘わらず、新庄はそう断言した。
やがて、優花が寝室から姿を現わした。
手にはノートパソコンを抱えている。
優花はパソコンを間嶋に渡し、江田島には預かっていた携帯と、一枚の紙片を手渡した。
「え、もう書き写したんですか?」
江田島が問うと、優花はにっこりと微笑んだ。
「いいえ、これからですよ」
江田島は、もらった紙片に目を落とす。
「これは…新庄さんの名刺?」
「その下にアドレス書いてありますから、そこ宛てにさっきのメール、転送して下さい」
江田島は、やっと合点がいった。
何も、手書きで転写する必要は無い。転送すればいいだけだ。という事は…。
「…新庄さん!」
江田島は、恨みの籠った視線を彼に投げ掛けた。
新庄は、あははと笑っている。
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