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新庄は、この奇妙奇天烈なダイイング・メッセージを、事も無げに解読し、こう言った。
「江田島さん。麻里亜さんから望月カンナさんについて、生前託かっていた事があるのではないですか?」
新庄が解読し終えた資料から顔を上げ、江田島は不思議そうな表情を見せた。
「実はそうなんですよ。良く解りましたね」
新庄はさらに続ける。
「しかもそれは、間嶋を紹介して欲しいという様な内容だった」
間嶋がぎくりとした風に顔を上げる。
江田島は、さらに素頓狂な声を上げた。
「そ、その通りです。だけど、何故?何故解るんです?」
新庄は、また新たな煙草を口に咥えて、火を点けた。
「望月カンナさんは、推理作家を夢見ておられたんだ。そして、麻里亜さんの知り合いに間嶋の存在を知り、会って話をしてみたいとそう思っていた」
「おっしゃる通りです」
間嶋はまた、酸欠になり掛けている。
「でも、この文面にはそんな詳しく夢の内容までは書かれていませんよね?なのに、何故そこまで?」
「簡単な事ですよ」
新庄は立ち上がってベランダへと進む。大きく背伸びをしながら。
「普通の人間が、死の間際にここまで手の込んだ仕掛けを遺したりはしません。推理作家に憧れた彼女だからこそ、最後に自分の夢を追いかけたんでしょう。これが何故暗号化されているかと言えば、恐らくそういう背景があるのではないかと、感じただけです」
それでもまだ腑に落ちぬ顔で、江田島が口を開く。
「…しかし新庄さん。解読はされましたが、この文面では意味が無いと思いませんか?」
「何故です?」
「だってこれじゃあ、ダイイング・メッセージとしては不完全でしょう?このままでは、ただの遺言だ。せめて、犯人の名前でも書いてあれば─」
「書いてあるじゃあないですか」
窓外の景色を眺め、こちらには背中を向けたまま、新庄はそう言った。
「ええ!?い、一体、何処に?」
江田島が叫び、再度手許の資料に目を落とす。
「…間嶋、お前に憧れた望月さんの為にも、せめてそれくらいは読み取ってやってくれ。それが、現役推理作家である君の義務だぜ」
その言葉を受けて、間嶋はしばらくの間、その暗号文に目を落とした。
─やがて、間嶋はゆっくりと顔を上げ、犯人の名を口にした。
新庄は、笑顔でこちらに向き直り、口を開く。
「…上出来だ」
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