虚偽

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辺りにはナイフとフォークが陶器に当たる音だけが響いている。 シャンデリアが幾つもぶら下がった、人が食事をするのには少々広すぎる程の空間。 その真ん中に置かれた、細長いテーブル。 テーブルの上には、見ただけで食欲をそそる美しい料理の数々。 テーブルの回りを囲むように立つ使用人達。 そんな中、食事をとっているのは年端も行かぬ少年と、立派な髭を蓄えた男だけだった。 テーブルの向かい合わせに座る二人に、会話は無い。 食事を取り終わったのか、男は手に持っていたナイフとフォークをテーブルに置き、使用人の差し出した布で口をふく。 そして、向かいにいる少年には目もくれずに、席を立つ。 それに気付いた少年は、食事の手を止め、男に話しかける。 「父上! あ、あの……」 話しかけ座っていては失礼だと、立ち上がり、顔を上げると、既に父親は部屋から出て行った後だった。 「父上……」 口をふくこともせず、父親とは逆のドアから、顔を俯かせながら出ていく少年。 使用人達は、あまりに悲愴な少年に、励ましの言葉をかけようとするも、言葉が見つからず、言葉をかけることが出来なかった。 そんな中、少年と同じ様な年の使用人が急ぎ足で少年が出て行ったドアを開け外に出ていく。 「お待ち下さい! ルク様!」  その声に気付いた少年……ルクは、声の方向に振り向く。 「ツアイス……」 「ルク様、旦那様は……」 「ツアイス、僕は大丈夫。気にしてないから」 ルクは小さな使用人、ツアイスの言葉を遮り、笑顔で話しかける。 「それより、僕の部屋にきて一緒に遊ぼうよ!」 ツアイスの手をひきながら、笑顔で駆け出すルク。 「わ、わっ! ちょっと待って下さいルク様!」 いきなり手を引っ張られ足をもつらせ、転げそうになり、焦るツアイス。 そんなツアイスの様子を、楽しんでいるルク。 ルクにとってツアイスは、この家で唯一、心を許せる人間だった。 たった一人の心の支えだった。
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