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文久3年(1863年)
満開に咲き誇る桜を満月の明るい光が、妖しく照らす京の町。
そんな場所を、五人の男達が、歩いていた。
もう、夜遅く寝静まった町では、見渡す限り出歩いているのは五人しかいない。
五人の男たちのうち前方にいる三人のうち二人は道を照らすためか、提灯を持ってる。
そしてこの五人は全員、浅葱色のダンダラの羽織を着ていた。
夜にも関わらず、浅葱色の羽織はとても目立っている。
そんな独特な服装をしている彼らは壬生浪士組の隊士達。
会津藩お預かり京都守護職の剣客集団である。
「今日は満月も綺麗ですし、夜桜を見るのに最適な日ですよね。
これで後、大福餅があれば完璧なんですが……」
前方にいる提灯を持っていない男が、桜と月を見ながら残念そうにそう言った。
「あの……沖田先生。
今は巡回中です。いつ不逞浪士が現れるかわかりませんよ。
お気をつけ下さい」
沖田先生と呼ばれた男の隣を歩いている提灯を持った男はどこか用心するようにそう言う。
沖田はハハハと軽く笑って、
「わかってますよ。
それに、不逞浪士が現れたらグサッと斬っちゃえばいいんですから」
と、笑ったまま怖いことを言うので、それを聞いた男は引きつった笑みを浮かべながら、
「はぁ」
と、頼り無い返事をした。
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