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【ルカ】
元気のよい少年の声に、マスターは一瞬顔変わりをした。
が、すぐに商売顔に戻し、
「お客様、まだ開店しておりません」
と言った。
その言葉を不思議に思った少年は、
「主人どの、先ほどこの店に私と同じような格好の青年が入っていったではないか」
と言った。
するとマスターは、少年には分からぬように舌打ちした後、不機嫌そうな顔で
「こちらへ」
と言い、少年を店内へと導いた。
*
少女は、きっともう戻ることのない我が家をしばらく見た後、歩き出した。
少女はその家族にとって、異なったものであった。
別に容姿が見るに堪えられない
とか
異常な言動をとる
というわけではない。
が、なんとなく雰囲気が他の家族とは異なっていた。
少女は、自分が家族とは違う、異質な存在ということに気付いていた。
自分は他の兄弟のように
畑を耕し、結婚し、子どもを産み育てる
ということは、できないだろう……と。
だから少女は、旅に出ることにした。
自分を知るために……。
丘を越え、街に入る前、
手配書で見たことのある賊を見つけた少女は、
にやり
と笑った後、腰に差している剣を抜いた。
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