物語の“歯車《ギア》”が動き出した

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物語の“歯車《ギア》”が動き出した

   時は201X年の9月初旬。  日本の首都・眠らない街、東京。 「う、うわぁぁあ!!」  今宵もまた、星に負けぬような色様々なネオンに照らされ、百色の騒がしい音を奏でる街中を背景に青年が脅えながら駆け抜けている。  そんな彼のすぐ目の前に、竹刀を片手に握り締め、レトロな建物に使われる煉瓦の色のような赤茶色の髪、黒く個性的な衣装を纏った小柄な男が現れた。 「アンタが、万引きしてる性悪ターゲットだな?  タレントで、演技能力は優秀。かつイケメンで、お茶の間の女子のハートをわし掴む、パーフェクトな好印象の青年。  あー、マジで苛つく。マジ嫉妬嫉妬嫉妬ッ!ホンッットウゼェ!ていうか、死ね」 「ゆ、許して下さい!俺、明日も収録とかあって、もう色々大変なんです!ホントに、ホントに許して下さい!」  竹刀で右肩を軽く叩いて見据える赤茶髪の男に、青年は、道路上で土下座して必死に許しを請う。  青年は、タレント活動の裏で万引きをし、それを小遣い稼ぎという名目でネット上で売りさばいていた。  裏でコソコソと誰にもバレずにやっていた。そう思っていた活動を、数分前、この男が、(あたか)(はな)から知っていたかのように彼に証拠を突き出し、彼を拳で成敗すると、竹刀で更に襲い掛かり今に至った。 「無理。だけど、アンタが今持ってる金を、全部俺に寄越してくれるんだったら、許してやってもいいぜ?」  男のその要求に、彼は、慌ててジーパンのポケットに入っていた財布に手を伸ばし、震える手でそれを男に差し出した。  男は早速それを受け取ると、それの中に入っていた札束を数えて抜き取り、そのまま自分の懐に入れた。  これで許される。助かるんだ。  彼がホッと一息して、その場で安堵した。その刹那── 「フッ……。バカじゃねぇの?」 「……へ?!」  男の嘲笑を含んだ冷たい声音に、彼は目を見開いて顔を上げた。  男が口端を吊り上げて、ニンマリと不穏に(わら)っている。その目は、獲物を見据える獅子のよう。    彼は全身から脂汗を滲み出させ、迫る恐怖に息を呑んだ。  
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