《序章・ある少女の受難》

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…食べ物の好き嫌いが多い子供だったものですから、叱られることも多うございました… 中でもとりわけ苦手だったのが「酢の物」で、酢の匂いも駄目なら甘酢の味も受け付けない…といった具合ですから、わかめ酢や紅白のお膾などはお膳に出されても一切箸を付けませんでした。 そんな頑固な私に業を煮やしたのでしょう。その日…そう、胡瓜の酢揉みがあったのだから夏のことに相違ありません…お祖母さまのご命令で、私のお膳だけがすべて酢の物で埋め尽くされていたのです。ご飯までが酢蓮根の混ぜご飯という念の入れようで… お膳の前に座ったまま一切食べようとしない…いや、食べることのできない私… 夕餉を済ませた他の人達のお膳が下げられても、私のお膳だけが広間に残されました。そしてそのお膳を挟んで、口をへの字に結んだ私とお祖母さまの根気比べ… やがて、夜も更けて子供はもう床に就かねばならない時間となり、私はやっと入浴を許されお膳の前から解放されました。 空腹のまま湯船に漬かっていると涙がこみ上げて来て、お祖母さまの「理不尽」な仕打ちが呪われてなりません。 このままひもじいままで床に就かされるのか…それともお伯母さまか誰かがおにぎりくらいは差し入れてくれるつもりなのか… そんなことを考えながら寝間着に着替えて寝室に戻ると私の寝床の場所にあのお膳が先程のままの姿で置かれているではありませんか。
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