《序章・ある少女の受難》

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それでなくても胸には縄を幾重にも巻かれて強く締め上げられています。息をするのもつらいところに更に胸苦しさが追い討ちをかけます。…胃の中にやっと収めた食べ物までが口に戻ろうとします… 「今度吐き出したりしたら承知しないよ。」 お祖母さまが袂から手拭いを取り出すと下のお伯母さまに渡します。お伯母さまはそれを細長く畳み直します。私は「ああ、猿ぐつわを噛まされるのだな…」と思いました。 …お仕置きで縛られるのはそれが初めてではなかったし、大抵の場合猿ぐつわは付き物でしたから私にはすぐにそれが判ったのです。そしてそれはこのお仕置きが直ぐには終わらないことも意味していました。 少なくとも二、三時間…いえいえ、わざわざ寝間着に着替えさせられたということは… お祖母さまは私を朝まで赦す気はないのだ… そのことに気がつくと、私の体の力は抜けました… そんなわたしの気持ちにはお構い無しにお伯母さまは私の口を割るように手拭いを噛ませます… 頭の後ろで締め上げられると手拭いが頬にぐいぐいと食い込んで口の縁が痛みます。 お祖母さまは更にもう一本手拭いを取り出しました。お伯母さまはそれで畳の上にまだ拭き残っていた汁気やら、私の寝間着の衿元の食べこぼしやらを拭き清めます… まさか… その酢の汁気を吸って湿った手拭いを… それだけはどうか勘弁して… 私は首を横に振って逃れようとしましたが… お伯母さまは酢の匂いのぷんぷんする手拭いを広げると私の鼻から顎先までをすっぽりと包むようにして二重の猿ぐつわを噛ませに掛かります。 …いつまでも息を止めているわけにはいきません。胸を縄で締め上げられているのでそれでなくとも息が苦しいのです。耐えられなくなって息を吸い込むと容赦なく酢の匂いが鼻を襲います。 口の中には押し込まれたふきんと共にまだ食べ物が飲み込みきれないで残っています。酸っぱいよだれが直ぐに口に溢れて来ます… 縄がきつくて息が苦しいし、よだれも簡単には飲み込めません。 …こんな苦しい思いが朝まで続くのかと思うと、「どんなことでもするから今すぐ赦してください」と叫びたい気持ちでしたが、どんなに喋りたくともこんなに厳しく猿ぐつわを噛まされてしまってはもう呻き声しか出せません。苦しくて、つらくて、悔しくて… 涙が勝手に溢れてきます…
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