《序章・ある少女の受難》

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…踏ん縛るという言葉があります。罪人などを足で踏んづけて、縄が弛まぬようにきつく厳重に縛り上げる…といったような意味でしょうか… 辰さんの縛り方はまさにその言葉通りの厳しいものでした。 「あんまりきつく縛っちまったら直ぐに参っちまうからなぁ…」 口ではそんなことを言っているくせに、手加減している気配などはまったくないのです。縄がびしびしと体に食い込んできます… 「嬢ちゃん、堪忍してくださいよ。奥様のお言い付けなんだから、あっしが言うことを聞かない訳にゃ行かねぇんだ… それにきっちりと縛って置かねぇと、縄がずっこけて首に絡んだりしちゃあ首が締まっちまうからね…」 …そんなふうな恩着せがましいことまで言います。 「嬢ちゃんは知らねぇだろうが、だいぶ前に嬢ちゃんくらいの歳の子守り娘が居てねぇ… 祭の晩に帳場の小銭をくすねたのがバレて、こんな具合に踏ん縛られて牛小屋の梁に吊られたまではいいんだが、朝になって見に行ってみると首に縄が巻きついていてねぇ…」 そんな話は聞いたこともありません。きっと私を怖がらせようとしているに違いありません… そんなことより縄がきつくてどうしようもありません。首が締まる前にこのままでも息が詰まりそうです。 「…たった五銭ぽっちの金を命と引き換えじゃ勘定が合わねぇ…」 …辰さんは喋りながらも手は休めません。とうとう私は全身縛り直された上に、腿や足首にも新たに縄が掛けられてしまいました。 「嬢ちゃんは好き嫌いが多いんだってねぇ。贅沢なこった。」 そう言うと、辰さんは私の背中に足を掛けて縄を引き締めました。私の体は「己」の字に折り曲げられ、おでこが膝に付きそうです。寝間着に着た浴衣の、お腹の辺りの朝顔の模様が帯の代わりに巻いたお古の赤い扱帯に半分隠れているのがちょうど目の前にあって、それ以外は何も見えません。首を縦に振ることも横に振ることも出来ないのです。横目を凝らすと、やっとのことで辰さんの残忍そうな顔がちらっと見えました。 「奥様。支度ができましたぜ。」
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