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黒いコートを羽織ると、壁に立て掛けていた紅く不気味に艶めいた鞘を背中に忍ばせ、更に小刀をブーツや腰、コートの裏側に忍ばせた。 仕上げに消音サイレンサーを付けた拳銃を懐に入れておいた。 人の命を奪うのは良いものじゃない。 ナイフが肉を切る感触も慣れるに慣れない。 だけど、俺にはこれしか道は無いんだ。 いつもそう自分に言い聞かせ、罪を重ねる。 準備が整うと、アパートの脇に止めてあるバイクに跨(マタ)がり、走らせた。 少しじめじめとした目立たない街中の裏通りに小さな事務所が建っている。 建っているといっても、他の会社と共有している1フロア貸りているだけのビルだ。 その4階建てのビルの最上階に事務所がある。 少し錆びている金属製の扉の横に付いている穴にカードキーを差し込むと、ガチャリと鍵の開く音が聞こえた。 開いた扉の突堤(トッテ)に手を掛けて開くと、割と地味な部屋が視界へ映った。 「あ、伶」 本木 佳奈(モトキ カナ)は、書類をパラパラとめくっていた手を止めると少し眠そうに口を開いた。 先程の電話の相手は佳奈で、いつものように詳しく内容を聞くためにこうして事務所へ足を運んだ。 ターゲットの写真も確認しておきたいしな。 「先程の件なら…ほら」 クリアファイルをめくってから佳奈は伶に手渡した。
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