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「そこに誰か在るの?」 私が蔵に閉じ込められて5年目のことです。 食事係が蔵の鍵を閉め忘れ、蔵の扉が少しだけ開いてました。 蔵に近付くなと言われていたお兄様は、好奇心で蔵の様子をよく窺っていたのでした。 「ぼくは紫苑なの。 このお屋敷の偉い子なのよ 君は誰? 蔵に閉じ込められるくらい悪い子なの?」 「来ないで! 怒られちゃうわ」 「なんで泣いてるの? 痛いの? ぼくが摩ってあげるよ!」 これが私とお兄様の出会い。 「ぼくとそっくりよ! 名前は?」 「名前ないの。 姫って呼ばれてる‥」 「可哀相‥ う~~ん 白くてひょろひょろね 日陰の草みたい。 日陰の草は萌黄色なのね だから君は萌黄ちゃん!」 私の名前はお兄様に付けて頂いたの。 大好きなお兄様に 蔵に閉じ込もる日陰者の私に、お兄様は自身も知らずの内に、私にぴったりの名前を付けて下さいました。 後に成長したお兄様は、とても後悔なされたけど、私は萌黄の名は好きなのです。 大好きなお兄様に頂いた初めてのプレゼントなのですもの それから私の人生に色が着いたの。 お兄様がお話に来て下すって、私はただ 蔵に居るだけてなく、知識の翼を広げる事が出来たのです。 私はお兄様で心がいっぱい お兄様が全てとなったの。
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