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お兄様は乳母から盗み聞いた事を話して下さいました。 「‥酷い、御祖父様も父上様もみんなみんな‥‥ 僕は萌黄の事が好きだったのに! 元服して大人と認められたら、自分の屋敷を持って萌黄をお嫁さんにしようと思ってたのに!」 お兄様は泣いてました。 でも、私は何と無く事実を受け入れてました。 蔵の中は狭くて土間だとは云え、女の子が持つお道具類は調われてました。 みな、蒔絵の美しい品の良い物です。 着物だって、楽しむ程数は無いけど 古くなってボロボロになる事なく、定期的に与えられてましたし。 私のお世話係は、私の身の回りの事を丁寧に扱って下さいましたから、 前々から変だと思ってました。 ようやく合点して、私は小さく息を吐きました。 「じゃあ紫苑君は、お兄様と呼ばなきゃいけないのね。 私は嬉しいわ 私の半身が自由に外へ出れるのですもの。 こうして逢いに来て下されば、ひとつになれるのよ? 私が完全に完成されたと感じられる‥ お兄様」 「結婚は出来なくなったけど、僕が萌黄を守る。 何時か必ずここから出すから!」 この日を境に お兄様は才を伸ばされました。 口調も敬語を使い、大人びたのです。 ただ、抱擁や接吻は止められませんでした。 ふたつに別れ生まれ落ちたのを、繋ぎ合わせるのに必要だったのです。 その心地好さを今更止められませんでした。 男と女を越えた 魂の結び付きを確認する行為でした。     
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