15/28
前へ
/197ページ
次へ
父上様のお手本を見ながら、私は自分でも満足出来るお手紙を書き上げたの 美しい薄紅色の透かし紙に走る平仮名 お兄様に言われるがままに書いた恋文‥ そのお兄様は私の背後、筆を持つ私に手を添えて頬と頬を寄せるのです さすがに私もこの状況には耐えられず かといってどうすることも出来ずに、お文を書き散らして早く終わる事を願ってました そして書き終え、お兄様に渡すとさりげなく何時も座る席に戻りました。 今考えると、その選択は正しかった。 「筆の動き、墨の艶やかさ濃さ、どれを取っても美しい この恋文を見たら、誰もが恋をしてしまいますね‥ この恋文、貰っていいですよね 萌黄が私に宛てた恋文を」 お兄様は熱に浮された、うっとりとした瞳をなされてました どう返事しようかと思って居ると、渡り廊下から人の気配が‥ 「姫や、稽古は順調かね」 私を蔵から出す時以来、初めてこの部屋にいらして下さった父上様。 ――お会いするのは2度目です 部屋の様子を一回り見て、お兄様がいらした事に眉を寄せました。 私は教えの通りに三つ指を付き、父上様にご挨拶を述べてから、父上様を上座に導きました 父上様は頻りに頷き、私をじっと見ました お兄様が時々おかしくなるのを 見られずに済んだと、そっと息を吐きました。    
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加