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「姫の名は何と申すのかな」 帝の来訪は突然でした 予定されていた行事が、天候の為に延期され 帝が急遽、梅局に参ると言われたからです。 私とは年の離れた青年。 私が初めて見た帝の印象です 「萌黄ですわ帝」 「妻になるのです 帝と呼ばず、蘇芳(すおう)と。 私達は偶然に色の名前だね 蘇芳は赤紫 萌黄は黄緑だ 萌黄の兄君の紫苑は、着物の重ね色の表が薄い紫と裏の緑。 私達夫婦を合わせた様じゃないかい? 何だか不思議な縁(えにし)を感じるね」 おっとりとお話しされる帝‥蘇芳様 優しい声音に緊張が解れると、寂しそうな笑みをなされました。 「そうおっしゃられると、蘇芳様に親しみを感じます どうぞ末永くお宜しくお願い致します」 「では まず、その敬語はお止めなさい 親しい気がちっともしないと思わないかい?」 蘇芳様は私の近くへと移動して、両手を取って首を傾げました 大人で男らしい方が可愛らしく見えて、思わず笑ってしまうと 嬉しそうに膝を合わせて―良かった―とにっこりとされました 優しいひと‥ この日から、蘇芳様が私の光となりました お兄様の存在も遠くへ飛ぶ程、私を満たして下さいました。     
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