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あたしは後ろから隆弘を抱き締めた。
勢いよく抱き付いてしまったから、あたし達は床に倒れこんでしまった。
あたしは隆弘のシャツを力いっぱい握りしめた。
「……で」
声が震えてしまう。
「いかないで」
隆弘の目にも涙がたまっていた。
「いか…」
どれくらいのあいだ抱き締めあっていたのかはわからない。
ばいばいと言った隆弘は、二度と帰ってこない気がした。
それだけは嫌だった。
雨の中で子供みたいに泣き続ける隆弘は、しゃくりあげながら何度も何度も〔ごめんね〕ってつぶやいていた。
「実彩子…」
隆弘があたしの名前を呼ぶ。
あたしは隆弘の方を向く。
「なに?」
まだ隆弘の目には少し涙が溜まっていた。
ちゅ
触れるだけのキスをした。
「キス」
にこって笑う隆弘はとても切なかった。
このキスがあたし達の世界を変えたんだ。
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