とある依頼

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淡い日の光が差し込み、ゆったりとした放課後の教室。 生徒も徐々に帰り始めた中、窓際に立ったまま一向に動かない勇人(ハヤト)が、珍しく険しい顔をしていた。 手に持った漆黒の革の手帳を睨みながら、僕が来たことにも気付いていないようだった。 「今度は何頼まれたのさ?」 この手帳の中には、こいつが地道に集めた、親友の癖から物理の先生の恋人まで、様々な個人情報が、あいうえお順に嫌というほど詰め込まれている。 高崎勇人。知る人ぞ知る、情報屋。 僕の方をチラリとも見ずに、恐るべき集中力で手帳を覗いたまま、勇人は応えた。 「あんま大きな声出すなよ。仕事は内密に行わなきゃいけない。えっと……ああ、やっぱり持ってないか」 小さくため息を吐いた後、勇人は手帳にあたるかのように、勢い良く閉じ、僕の方へ振り返った。
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