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「ふん、本当に老いぼれたか。平民にしておけば魔力が回復してから引き取りに来ることもできよう。馬鹿げた希望にすがるべきでない。魔力をつかい、強大な力をもって人々を守る。それが貴族。その責務を果たせぬのなら意味はない!」
そう言ったキーズは、皆に背を向けドアに向かった。その背中にランドルフは問いかける。
「キーズ殿、どちらへ?」
「あまり歓迎されてないようなので、失礼する。再度言う。甘言に惑わされるな。ランドルフ殿」
「……脚をお運び頂きありがとうございます。苦言、感謝いたします」
キーズは一言、ふん、と言って部屋から出て行った。
「あの方は、なんと傲慢な!わたしはともかく、タイランド殿にまで!」
「……みなさまには悪いのですが、私はこの子を平民にしたいのです」
この場に残った医師と魔導師はランドルフの妻、サヤ=フレイム=トーアを見た。
「たとえ、この子が貴族の責務を果たせるとしても、命を賭ける過酷な日々。夫を見ているとわかります。できれば平民になるほうが幸せです……親と名乗ることはできなくとも」
サヤは、腕に抱いた我が子を愛おしんで見ていた。赤ちゃんはすやすやと眠っている。
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