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俺は焦燥感に駆られながらもアクセルを踏み込みやっとの思いで自宅へたどり着いた。
予想通り家の前は救急車が停車してあり辺りは騒然としていた。
赤い光が交差しながら俺を照らす。
車を降り覚束ない足取りで俺は家に入った。
息があがり呼吸が乱れる。
「っ美咲!」
リビングに入ると怒りに満ちたイサミが俺を出迎えた。
「司、何してたんだ!!」
しかし今はイサミの質問に答える余裕はない。
ぐったりとした美咲の体が担架に乗せられ、その光景を目にした俺は愕然とした。
「こんなことって……」
「美咲ちゃんは激しい咳によって酸素がうまく取り込めなくなり意識を失っている。しかも今は体力も低下しかなり危険な状態だ」
「そんな……ばかな。ウソだろ!!美咲冗談はやめろ!!」
忙しく動く心臓を抑えながら応急処置をされている美咲のもとへ駆け寄った。
「美咲!!」
なりふり構わず大声で愛する人の名を叫んだ。
けれども、反応は返ってこない。
「俺はここだ」
血にまみれ顔が青ざめてる姿を見て体が崩れ落ちそうになるが必死に美咲の体にしがみついた。
「美咲、俺だ!!頼む、目を開けてくれ!!」
だが俺の叫びはその場に空しく響き渡るだけだった。
それから美咲を乗せた救急車は病院を目指し走り出した。その間、俺は美咲の手を力強く握り二人が無事であることを祈り続けた。
そしてすべての検査が終わり医師が俺のもとへやってきた。
「先にお伝えしておかなければならないことが──」
この口調で良い報せではないことだけは分かった。
じっとりと濡れる手をぐっと握りしめ医師の言葉に耳を傾けた。
「奥さまは切迫流産をしています」
その言葉を聞いた瞬間、目の前がぐにゃりと歪み俺の膝はカクンと力を無くした。
「…………流産」
情けないほどのかすれた声が周囲に響く。
俺はそれなりの覚悟を決めていたものの──やはりこの悲しみだけは耐えられそうにない。
目の奥が熱くなり言葉をどう出すかも忘れてしまった。
わずかな希望も捨てずに俺はきっと二人が無事でいてくれると信じていた。
だけどそれはただの悪あがきでしかなかった。
「クソッ!」
こんな時に涙が出ないなんてなんて薄情な父親なんだ。
「ですが……」
医師は静かに言葉を続けた。
「!?」
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