司の心情

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 医師は俺に今の状況を分かりやすく説明してくれた。  切迫流産とは何か――それは流産に至らず胎児がギリギリの所を持ちこたえている状態をさす言葉らしい。医師曰く胎児からのSOSのサインだという。 「えっ……ということは……」  医師は先程までの硬い表情を緩めた。 「胎児の心音を確認しました。危険な状態には変わりありませんが……妊娠継続の可能性は見えてきました」 「……ほ、本当ですか」  俺は震える声でそう訊くと医師はこくりと頷いた。  その瞬間に俺の張り詰めていた思いが一気に解き放たれた。 「うっ……」  安堵した途端に目から涙が溢れ出てきた。  こんなに沢山の涙を流したのは生まれて初めてかもしれない。  けれど医師は再び険しい表情を俺に見せた。 「しかし、先程もお伝えしましたが、現状は危険と隣合わせです……奥さまはとくに注意しなければなりません」 「?」 「奥さまは肺炎の恐れがあります」 「肺炎ですか!?」  俺はある日のことを思い出しその途端体の動きが止まってしまった。  あれから一年以上も立つがあの苦しさは今でも忘れられない。  あの時自分も一度肺炎を経験していながら、何故はやく美咲の異常に気付いてやれなかったのかと自分自身に叱咤した。  悔しさで自分の唇を強く噛みしめた。 「何よりも今は安静にしておくことが大事です。それが一番の治療法とも言えます。点滴やホルモン剤の投与も検討してますが、そんなものよりも一番の特効薬が奥さまを安心させることです。そうすれば良い結果に結びつくでしょう」 「安心……させる」 「はい、そうです。胎児も今、母体の中で生きようと頑張っています、そんな胎児を守るのが母親であってその母親である奥さまを守るのが白川さん、あなたの仕事です。あなたが二人を支えてあげてください」  医師はそういうと優しく微笑んだ。  その言葉がすうっと体に吸収されていくようで、俺はおかげで自分の使命は何かやっと分かることが出来た。 (そうだ、俺が希望を捨ててはいけない) 「いまが胎児とあなた方の試練の時です」 「わかりました。ありがとうございます」  俺は今一度頭を深く下げそれから急いで美咲がいる病室に向かった。  けれど、いざ扉の前に立つと足が止まって動けなくなってしまった。
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