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「いいか、次、美咲ちゃんを泣かせるようなことがあれば俺が頂くからな」
コイツなら美咲を預けても何一つ心配はいらないだろう。イサミなら必ず美咲を幸せにしてくれるはずだ。
だけど──。
「残念だが、それはない。美咲を泣かせるようなことはもう二度と俺はしない」
そう言うとイサミは満足そうな笑みを浮かべた。
「さっきとは大違いだな、大した自信だ」
「お前には感謝してる。美咲と子供の命の恩人だ」
「は?なんだよ急に……」
「そして俺にとってかけがえのない大切な親友だ、ありがとう」
イサミはクルッと反転し俺に背を向けた。
「気持ちが悪いからやめてくれ……じゃあな」
そう言ってイサミはゆっくりと歩き始めた。
本人には口が裂けても言えないが、今の俺の目には昔よりも大分アイツがカッコよくみえた。
(殴られたショックで頭がイカれてしまったかもな……)
だけど、これだけは強く言える──イサミは俺の自慢の親友だ。
それから俺は姿勢を正し、しっかりと扉の取っ手を握りしめ、無駄な考えなどを一切捨て美咲のもとへ向かった。
静寂な病室に美咲はすやすやと寝息をたてて眠っていた。
顔色もいつもと変わらずで、俺は安堵した。
「司さん……さようなら……」
「!!」
突然の言葉に驚き俺は急いで側へ駆け寄ると、美咲は眠ったまま目尻から一筋の涙を流して魘されていた。
「美咲……」
美咲は今もなお夢の中で、苦しんでいる。
早く安心させてあげたい。
俺はそっと温かな涙を拭った。
するとその時、美咲の瞼がゆっくりと開かれた。
俺は息をのみじっと美咲を見詰めた。
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