最終話

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 闇が薄れスゥっと意識が別の場所へ移った。 (ここは?)  重い瞼をゆっくりと開き一点を見詰めていた。  ぼやっと目に映る見覚えのない天井がどこか不安を感じた。  身体は鉛のように重く自由がきかないため私は瞳だけを動かし周囲を見渡した。  不気味なほど静かで薄暗い部屋から何となく病室ように見えた。 (また病院……)  毎回の如く病院送りにされる自分に嫌気がさし、いっそこの世からいなくなればいいのにと自分を呪いたくなった。  そしてすぐにただならぬ喪失感に見舞われ、目の奥がジワリと熱くなった。 (当たり前だけど今は付き添ってくれる人もいないんだよね……)  ボーッと天井を眺めているだけでも瞳に溜まった涙が次から次へと流れていく。 (1人ぼっちってこんなに寂しかったんだ……。司さんと一緒にいた時間がそれだけ幸せだったてことなんだ。だから、私はその寂しさの辛さを忘れてしまっていた)  そんなことを考えているうちに、だんだんと色々な記憶が甦る。 (私にはもう何も残っていない、希望も夢も……大切な人も……赤ちゃんも……) 「ッ!」  一瞬、気を失う前に残された記憶がフラッシュバックされた。 (私が、私が赤ちゃんを殺して──)  私は全てを思い出し胸がえぐり取られるような痛みを感じた。 「私と司さんの絆が……」  失望と恐怖で身体はガタガタと震えはじめ我を失いそうになった。  けれど、その瞬間誰かがグッと力強いく私の手を握ってくれた。 「美咲?」 「!?」  耳元から優しい声が聞こえ、私はその方向へ顔を向けた。  涙でぼやける目を必死に凝らし私は横にいる人物を見詰める。  顔がまだはっきりと認識できないが、声だけで誰なのかすぐに分かった。 「つか…さ……さん」  この、がっちりとして温もりのある手は間違いなく司さんのものだった。 「目が覚めた?」  ハンカチで涙を拭ってくれたおかげで今度ははっきりと顔を見ることが出来た。  目を細めにっこりと微笑む司さんの頬は涙で濡れていた。 「司さん、どうしてここに?」 「どうしてって……美咲が一大事だからここにいるんだけど、いけなかったかな?」  司さんの問いかけに私は小さく首を横に振った。 「……だけど……司さんは、三嶋さんのところに……」  そう言うと司さんは不思議そうな顔で私を見ている。image=419779140.jpg
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