最終話

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「美咲それはきっと夢だよ」 「え?夢?」 「そう、美咲は悪い夢を見てたんだ、大分熱で魘されていたみたいだしね」  まるで子供を宥め賺すように司さんは笑いながら私のおでこを優しく撫でてくれた。  司さんはきっと全てを知ってしまったのだと思う。──三嶋さんに離婚届を渡したことも私が司さんに嫌われようとしたことも全部。  そして私に余計な心配をさせないように、全てを夢のせいにしている司さんの思いやりにも……私は気付いてしまった。 「美咲は忘れているかもしれないけど、前に俺にこう言ってくれた、“俺が美咲を見離さない限り美咲は死んでも俺の傍に居続ける”と」  その言葉を聞き私はハッとした。 (そうだ、私は前にそう司さんに誓った……それなのに私は……目先のことばかり考えていて大切なことを忘れてしまっていた) 「俺がまだ過去の恐怖に縛られていた時、この言葉で俺は救われたんだ、それと同時に、この子だけは手放してはいけない、自分がこの子を守らなければと強く思えるようになった」  私は今になって自分が犯してしまった過ちを後悔していた。 「ごめんなさい」  私は申し訳なくて司さんの顔を見ることが出来なかった。 「謝ることはない全ては俺の力不足だ。結果、美咲をこんな状態にさせてしまった。謝るのは俺の方だよ」 (こんな状態……) 「駄目です!!やっぱり謝るのは私の……私の……」  大切なものを守れなかったことを司さんに謝ろうとしたが、声が詰まって涙しか出ない。 「私……赤ちゃん……守れ……」 「どうしたの急に」 「だって……うぅ……う」  司さんは再びハンカチで私の涙を拭いてくれた。 「赤ちゃんはお腹の中にいるじゃないか、美咲は一体どんな酷い夢を見てたんだ?」 (え?) 「夢って……」  私は驚きのあまりぽかんとしてしまった。  またしても夢のせいにされてしまったが、無事だということを知りその瞬間私は嬉しさで身も心も軽くなった。 「肺炎、早く良くなるといいね」 「肺炎?」 「そう、妊娠中は免疫が低下してウイルスをもらいやすいんだって。っというわけで今日からみっちりと美咲の看病に努めますのでよろしくお願いしますね」  司さんは急にかしこまりニッコリと微笑んだ。
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