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「私……やる」
「は?」
「パリで頑張る、だけど近藤……」
言葉を一区切りし三嶋は微笑み口を開いた。
「あの二人と和解できるまで……私の側にいて」
「な、なんだって!?」
俺は店中に聞こえるほどの大きな声で叫んでしまった。
何がどうなってそうなったのか全く分からず、俺は混乱しへたりと、もう一度椅子に腰を掛けた。
「今は一人になりたくないの……一人では前に進めない」
「酔ってんのか?」
「酔ってないわよ、あたしだってこんなこと言いたくないわよ!……だけどさっき言ったでしょ!素直になれって」
「あっ、あー……言ったな」
「なによ!あの言葉は嘘だったの?唆すための口実だったの?どうなのよ!」
自分の言った言葉に嘘偽りはないが、まさかこうなるとは想定外だった。
けれども、本人が良い方向に変わろうとしているんだ、そんな人間を俺は見離すことはできない。
そして、俺の答えは案外すぐに出た。
「分かった、お前が本当に変わろうとしているなら俺は協力する、傍にもいてやる。その代り、お前はパリに戻り店を継げ、そしていつか必ずあの二人の前に出て真剣に謝罪をしろ」
そう言うと三嶋は険しい顔をしたが、すぐに表情を緩めゆっくりと頷いた。
それから三嶋はパリに戻り父親の後を継いだ。俺は俺で毎日かかる三嶋からの電話にゲッソリしているが、うまくやっている。
司がハクに戻れば俺は皆に内緒でロスからパリに拠点を移そうと考えていたりもした。
頻繁にかかる電話は嫌じゃないが、やっぱり近くにいた方がお互いにとってはいいのかもしれない。
「おい近藤何にやけてんだ?」
デコレーション中の俺に背後から黒木が声を掛けてきた。
一瞬ドキッっとしたが、俺は平然を装い手を動かし続ける。
「にやけてねーよ」
「何か怪しいよな、最近のお前……!!」
次の瞬間、俺は怪しむ目でこっちを見ている黒木に容赦なく生クリームを勢いよく顔にぶっ掛けてやった。
「貴様ー!!何しやがる」
「うるせーよ、人の邪魔せずに自分のことしろよ」
とにもかくにも、ハクは俺にとって大切な場所であり。毎回イラつくこんな黒木でも一応、俺にとっては大切な親友だ。
そして全ての精算をすませた三嶋麗香もいずれ俺のかけがえのない存在になるはずだろう。
その時が来るまで俺もアイツを受け入れる準備でもしておこう。
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