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司さんは疲れがたまっているのもあり食事を済ますとその夜もまた次の日の夜もまともな会話もせず直ぐに寝室へ向かい眠りにつき、私は私で眠りの邪魔をしないようコマチの部屋で眠れない夜を過ごした。
「お待たせしました」
「いえ、わざわざすみません」
明日出発を控えた私のもとへ約束通り、15日の夕方、黒木さんの奥さんがコマチを迎えにきてくれた。
「美咲さん、どうしました?」
「え?」
「いえ、美咲さんが浮かない顔しているので、気になって……」
私は知らないうちに沈んだ気持ちが顔に出ていたみたいだ。
「あ、すみません、夕飯のことを考えてました」
「そうでしたか、それならいいのですが、旅行前に何かあったのかもと心配しました」
ドキッとしたが、私は笑ってごまかした。
「コマチいい子にしててね」
そう言いながらゆっくりと奥さんにコマチを預けた。
「では、ごゆっくり楽しんで来て下さいね、コマチちゃんは私どもにお任せください」
「ありがとうございます」
コマチは黒木さんの奥さんに抱かれ喜んでいた。そしてチャイルドシートに丁重に乗せられコマチを乗せた車は遠くへ消えていった。
コマチの事は心配なんてなかったが、今の私にはそれよりも別のことが気がかりで仕方なかった。
(旅行先でも私、司さんと楽しくやっていけるかな……司さん、店が気がかりで旅行どころじゃないのかも)
コマチがいなくなり私は、一人寂しくソファに座り、ぼーっと暮れ行く夕日を眺めていた。
するとテーブルの上に置いていた私の携帯が突然鳴り始める。
ディスプレイを見ると司さんからだった。
その瞬間胸がドキッとした。
(司さんからなんて、珍しい)
結婚当初に比べると司さんからの電話はめっきり減り、それも口では言わないが正直寂しさを感じていた。
そして私は深呼吸をし電話に出た。
「もしもし」
「もしもし……美咲?」
「司さん……こんな時間にどうしました?」
「それが、……怒らないで聞いてくれるか?」
その言葉に私はゴクリと唾を飲む。きっとこれから聞かされる事は良いことではないと、この口調ですぐに分かった。
「何があったか分かりませんが、どうぞ言ってください」
「……それが、明日の旅行中止にできないか?」
「……え?」
司さんからの言葉に私は息をのんでしまった。
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