波乱の結婚記念日

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「ちょっと待ってください!どういうことですか?旅行を中止しろだなんて!」 「実は、あの月森アイから直々にバースデーケーキを頼まれたんだよ」 「月森アイってテレビで司さんと共演したあの……」  その瞬間、ざあっと全身に鳥肌が立った。 (どうしてよりによってあの女の人なの?) 「明後日の17日なんだけど、どうしても俺に頼みたいと言って、きかないんだ」 「えっ!?」  司さんの言葉に心臓が大きく跳ね、私は思わず大きな声をあげてしまう。 「そんな、その日は!!」 (やっぱり、司さんは結婚記念日を忘れているの?いや、そんなはずはない、これは何かの間違えかも……)  けれど、冗談だと思いたいのに、司さんは続けて私の説得をはじめた。 「頼む美咲、今回は諦めてくれないか?今度必ず休みをとって旅行に連れて行くから」  戸惑いとショックでうまく声を出すことが出来ない。 「つ、……司さんにとって私との約束は“今度”という言葉で片付けられるほど些細なものなんですね」 「ちがう!美咲どうしてわかってくれないんだ、これも大切な仕事なんだよ」 「……仕事」 (わかってますよ、仕事は司さんにとって大切なものだって)   私は一生その言葉に敵うことはできない。  そんな、やりきれない思いを抑えながら私は司さんに伝えた。 「旅行は諦めます」 「そうか、……美咲、ありがとう、絶対に近いうち休みをとるから、その時ゆっくり温泉でも行こう」 「……もう、いいです。私、これ以上、司さんに迷惑をかけるようなことはしたくないので…… 今回も無理なことを言ってすみませんでした」  結局私はいつまでも司さんのお荷物だ。 (いつも嫉妬ばかり、もういやだ) 「ちょっとまて美咲!!」  もうこれ以上は泣き出してしまいそうで、私は急いで、電話を切った。  心から楽しみにしていた旅行は呆気なく夢となって消えていった。  そして、それから四時間後に司さんは帰ってきた。 「お帰りなさい」  私はいつものように司さんを玄関で出迎え鞄を受け取った。
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