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それも黒木さんは今までにない怒声を上げている。
「司は今も一人で熱心に仕事していたみたいだが、お前は呑気に旅行か?あ?」
黒木さんの言葉が胸に突き刺さった。
「呑気になんてじゃないです!司さんは私のこともう好きじゃなくなったんですよ!私がいなくても司さんはやっていけるんです!」
「甘ったれんな!司がどれだけお前のために頑張ってきたか、お前には分からんのか!?」
「わかりません!!」
(私より月森アイの誕生日を祝う司さんの気持ちなんか一生分からないよ)
「アイツはな、お前との旅行を楽しみにして、その期間の仕事を急遽全部前倒してこの何日間一人必死でやっていたんだぞ!!オープンまで日がないからってな!!」
「えっ」
「そんなことも知らんでお前は一人いじけて旅行に出たのか!はっ、神経疑うな」
「……でも司さんは大事な結婚記念日を忘れていたんですよ!」
「お前はつくずく馬鹿だな!!アイツがそんなことを忘れるはずないだろうが!」
「だってその日に司さん……」
すると黒木さんは横にいる奥さんに宥められたのか、少しトーンダウンした。
「月森アイの依頼は本当に予想外だった、だけど仕方ないだろ、仕事なんだから!」
「仕事仕事って何なんですか!」
「男はな、自分より大切な奴が苦労しないようにって毎日毎日懸命になって働いてんだよ、なぜそれを理解しようとしないんだ、お前は」
本当は黒木さんの言い分が正しい事ぐらい分かっていた。
(だけど、そんなこと教えてくれないと分からないよ!)
「司には、お前の居場所言っておくぞ。お前はもう少しそこで頭を冷やせ」
「駄目です……司さんには言わないでいいです」
「お前なー、いつからそんな強情になったんだ、アイツはお前のこと心配していたんだぞ」
「心配してるなら電話の一本でもかけてくるはずです」
そして、勢いよく電話を切った。
その後すぐに罪悪感が大きな波のように打ち寄せてくる。
(ちがう、教えてくれなかったからじゃない、私が司さんのこと分かろうとしなかったからいけなかったんだ)
この時自分が司さんに甘えていたことに気付いた。
とぼとぼと旅館に戻りながら私は頭の中で大反省会を開いていた。
(司さんに電話しようかな)
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