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「ちっちがぃ……ます……」
大きな声が出そうになったが、一生懸命 声を押し殺した。
(はぁ……なに焦ってんだろ私……)
それから私達は、先に出来上がっていた焼菓子を透明な袋に包み始めた。
その間、ユウヤ君の質問がクルクル頭を駆け巡る。
「そっか……てっきり俺らは、あの日から店長と市原さんが付き合い始めたかと思って」
(あの日?)
私は、あの日というのを思い出していた。
ユウヤ君は私の考えを読み取ったかのように、続きを話し始めた。
「あの日、店先で倒れている市原さんを店長が発見してね、傘もささずに凄い勢いで店飛び出してさ……」
(……思い出した、あの全てを失ってたあの日だ)
ユウヤ君の話しとともに私の胸もチクリと痛み出す。
「司さん、大事そうに市原さんを抱き抱えて戻ってきたんだよ。
俺たち、ビックリしてね、」
(……そうだったんだ)
なんだか、そんなことを聞いてしまったら、恥ずかしくなってしまう。
「あの店長が、とうとう女性に目覚めたかって、店中 それで話が持ちきりだったんだよ」
「ううん、司さんは 親切にしてもらってるだけだよ、自宅には帰ってこないし……。
えっ?司さんは彼女とかいないの?」
今更ながら 前々から気になっていたことをユウヤ君に聞いてみた。
「いるわけないよ~。
だって店長はお菓子作り一筋だからね」
「そうなんだ……」
なぜか、ホッとしてしまった。
「えっもしかして、市原さん店長のこと……」
ユウヤ君が喋り終わる前に、私は素早く話しに割り込んだ。
「わっわたし!べっべつに司さんの事なんとも思ってないよ!好きとかそんなんじゃ!」
動揺して包装がぐちゃぐちゃになってしまった。
その時だった、
「2人とも口を動かさずに、手を動かしなさい」
私達の頭上から 思わぬ人の声が聞こえた。
私達は 同時に息をのんだ。
ゆっくりと目を上にあげた。
するとやはり、そこには涼しい表情を浮かべた司さんが立っていた。
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