メレンゲ

5/7
前へ
/458ページ
次へ
「ちっちがぃ……ます……」 大きな声が出そうになったが、一生懸命 声を押し殺した。 (はぁ……なに焦ってんだろ私……) それから私達は、先に出来上がっていた焼菓子を透明な袋に包み始めた。 その間、ユウヤ君の質問がクルクル頭を駆け巡る。 「そっか……てっきり俺らは、あの日から店長と市原さんが付き合い始めたかと思って」 (あの日?) 私は、あの日というのを思い出していた。 ユウヤ君は私の考えを読み取ったかのように、続きを話し始めた。 「あの日、店先で倒れている市原さんを店長が発見してね、傘もささずに凄い勢いで店飛び出してさ……」 (……思い出した、あの全てを失ってたあの日だ) ユウヤ君の話しとともに私の胸もチクリと痛み出す。 「司さん、大事そうに市原さんを抱き抱えて戻ってきたんだよ。 俺たち、ビックリしてね、」 (……そうだったんだ) なんだか、そんなことを聞いてしまったら、恥ずかしくなってしまう。 「あの店長が、とうとう女性に目覚めたかって、店中 それで話が持ちきりだったんだよ」 「ううん、司さんは 親切にしてもらってるだけだよ、自宅には帰ってこないし……。 えっ?司さんは彼女とかいないの?」 今更ながら 前々から気になっていたことをユウヤ君に聞いてみた。 「いるわけないよ~。 だって店長はお菓子作り一筋だからね」 「そうなんだ……」 なぜか、ホッとしてしまった。 「えっもしかして、市原さん店長のこと……」 ユウヤ君が喋り終わる前に、私は素早く話しに割り込んだ。 「わっわたし!べっべつに司さんの事なんとも思ってないよ!好きとかそんなんじゃ!」 動揺して包装がぐちゃぐちゃになってしまった。 その時だった、 「2人とも口を動かさずに、手を動かしなさい」 私達の頭上から 思わぬ人の声が聞こえた。 私達は 同時に息をのんだ。 ゆっくりと目を上にあげた。 するとやはり、そこには涼しい表情を浮かべた司さんが立っていた。image=349893014.jpg
/458ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3536人が本棚に入れています
本棚に追加