10年後の始まり

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宿題も終わり、ふと顔をあげれば恵実がキッチンからこちらを見ていた。 「あっ……先生、すみません。」 恵実を待たせてしまっていた焦りから、智乃はいそいで片付けた。すると恵実はふんわり微笑み、穏やかな声で 「そんなことないわ。私も今終わったところだから。それにしても、智乃はやっぱり依玖子さんの娘ね」 と言うと、お皿をテーブルに運び始めた。 全てを運び終わって二人で向かい合わせで席に着く。キノコの和風スパゲティにサラダにスープ。彩りも綺麗で美味しそう。 「さ、食べましょうか」 恵実の一言で、二人は食べ始めた。クラスの話、友達の話、職員室での先生達の裏話など、普段はあまり出来ない様な話を沢山した。 中でもビックリしたのは、先生達の話をしている時に恵実が 「橘先生、橙凰(とうおう)学院大学のOrange shine のモデルだったのよ」 と言った時には、思わず口に入っていた物を吹き出しそうになってしまった。 橙凰学院大学といえば、全国的に有名なレベルも人気もトップ3に入る超有名かつ名門私立大学。入るだけでも、毎年25倍くらいの倍率を突破しなければならない。それだけでも凄いのに。 恵実が言っていた“Orangeshine”とは、橙凰学院大学の学生で制作・出版されている雑誌の名前だ。学生が制作していると言っても構成も文章も完成度はかなり高い。学校を広く沢山の人に知って貰おうと始まった企画が、大学進学を目指している人、受験生を持つ親、地域の人達をはじめとする橙凰学院大学に興味を持つ人達に好評だった。学生達の珍しい企画は直ぐに広まり、それが知名度が高い橙凰学院大学ということもあり話題として広く取り上げられたことから、Orange shineは今や知る人ぞ知る有名雑誌になったのだ。
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