10年後の始まり

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「穂浪、今日一緒に帰ろうよ」 「うん、いいよ」 あれから智乃と穂浪は仲良くなった。智乃も以前と比べればずっと明るくなったし、クラスにも馴染んできた。 ある日の放課後、二人が帰ろうとしていたところに担任の恵実が現れた。 「あら、智乃と穂浪しか残ってないのね。」 「先生、どうかしたんですか?」 穂浪がきょとんとして聞いてみると、恵実は苦笑して 「明日の朝にみんなに配る資料があるんだけど、うっかり印刷し忘れちゃったの。だから手伝って貰おうかなぁって思ったんだけど、2人とも帰るわよね」 智乃と穂浪は顔を見合わせてにっこり微笑み 「いいですよ。私達、もう帰るだけで何も予定が無いですから」 と言うと、恵実は穏やかに微笑み 「本当?じゃあ手伝って貰おうかな。荷物は持ってきていいから、職員室に来てくれる?」 『はぁい』 その後、2人は職員室に行き印刷を手伝って、全てが終わった時は7時を回っていた。 「ありがとう。助かったわ。遅くなっちゃったから家まで送っていくわ」 「えっいいですよ。私電車ですから」 穂浪が遠慮がちに言うと、 「今から電車で帰るよりは車のほうが早いわ。遠慮なんかいいから、2人で先に駐車場に行っててね」 そう言うと恵実は職員室を出て行った。 仕方ないので2人で駐車場に向かい、暫くすると恵実も来て3人で車に乗った。 助手席に智乃、後ろに穂浪を乗せて車を出し、先に穂浪を送って行った。 「先生、ありがとうございました」 「こちらこそ。ご両親に宜しく伝えてね」 「はい。では失礼します」 穂浪は会釈をして、家の中に入って行った。 車の中で恵実と2人きりになった智乃は、ふと思ったことを聞いてみた。 「先生?何で穂浪の家が分かったんですか?」 確かに恵実は2人を乗せて何の迷いも無く家まで着いたのだ。 「私ね、大学時代に穂浪の家の近くに住んでたの」 穂浪の家の近くの大学といえば、南教育大学だ。 「じゃあ先生は南教育大出身なんですか?」 「そうよ。南教育大学・教育学部・中学高校国語学専攻学科よ」 南教育大学は全国的に有名なレベルが高い国立大学。 ――先生凄いなぁ―― と思っていると、少し真剣な表情をした恵実が 「私の話はいいわ。……ところで、智乃?私に隠していることあるわよね?」 その瞬間、智乃の表情は入学当初の表情に戻った。
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