10年後の始まり

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「智乃。おじいさんとおばあさんと一緒に住んでいるの、嘘でしょ?」 智乃の実家は地元ではなく、両親と離れて父方の祖父母と暮らしていると言うことになっている。 「そんなこと。私、おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に住んでますよ」 恵実の口調に負けない様に智乃も返答した。すると、尚も真剣な表情の恵実は赤信号で車を止めると智乃の方を向き 「だったら、どうして朝に智乃が住宅街のアパートから出てくるのを私が見なきゃいけないの?私に出した書類に書いてある住所とは明らかに反対よね?」 「そ……それは……友達の家に泊まってたから」 「そう……智乃は友達の家に鍵をして出てったの」 「……っ!……」 何も言えない智乃は黙ってうつ向いた。 「ゴミだしも、買い物までして友達の家にいたの?」 信号が変わり、再び車が動き出すが、智乃は一向に下を向いたまま。 「智乃。私は別に怒っている訳ではないわ。何か事情があるのかもしれないということも察しがつく。でもね。もしも何かあったら、私は智乃を守れない。私が知らなかったら、智乃を助けてあげられないの」 「私は……べつに先生に助けられることなんてありません。先生には関係無いじゃないですか!私のことなんかほっといて下さい!」 智乃は半分泣きながら怒鳴った。先生に嘘をついていた罪悪感と、関わってきた煩わしさが一緒になって、何かがプツンと音をたてた。 恵実は表情を変えること無く車を運転しながら、穏やかな声で 「確かに智乃には関係ないわよね。でも、私には関係あるのよ。依玖子(いくこ)さんに、3年間は智乃を預かりますって約束したから」 と言った瞬間、智乃の表情が変わった。 「依玖子って……お母さん……?」 「そうよ。私の大親友で憧れの先輩だった中野依玖子さん。今は結婚したから高瀬に変わってるわね。智乃のお母さんよ」 「なんで……お母さんと先生が……」 いきなり母親が出てきてビックリした智乃は、さっきまで泣いていたのを忘れて恵実を見つめた。 「その話しは追々するわ。智乃、今日はうちにいらっしゃい。明日は休みだし、智乃には話さなきゃいけないことがあるから。それに、今日は旦那は出張で子供も修学旅行だから私しかいないの。」 智乃は断れる訳もなく、そのまま恵実の家に向かった。
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