ハジマリ

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秀は、時々訪れるそうで、この辺りの地理にも詳しかった。何件も陶芸を体験出来るお店があるのだけど、秀が得に気に入っているお店があるということで、そのお店に行くことになっていた。お店の人が準備をしてくれている間に、タヌキの置物等の作品が沢山並ぶギャラリーをぼんやりと見て回っていた。 沢山並べられたタヌキを見て、秀が私に問いかける。 「皆、違う顔してるなぁ。この中で、モナはどの子だ?」 私の長女に似たタヌキを探せと言うのだ。その感性に驚きながらも、便乗してみる。 「この子かな?」少し怖がりそうで、でも真が強そうな真面目そうな顔をしたタヌキの前に行き指を指す。 「お、俺もそう思った」二人で、笑いあう。 「じゃぁ、ショウは?」今度は、弟の方を探せという。 私は、元気でヤンチャそうで、寂しがりそうなタヌキを選ぶ。 「今度は、俺と外れたな」と秀が言う。 「秀君はどれだった?」と私が言う。秀が指したタヌキは、笑っている顔をした純粋なタヌキだった。 「うーん。似ているけど少し違うかも」と私が言う。 信楽焼きのタヌキ達も秀の感性に便乗すれば、いろんな顔に見えてくるんだ。 そんなことをしている間に、準備が出来たとお店の人に案内される。 ただ、ひたすら時間を忘れ、没頭した。 秀は、あの美しい瞳を、凛とさせながら、真剣な表情で、形を整えては、指に水を付け、均していく。大きな指で器用に作り上げていく姿に見とれてしまった。5時間は経過していただろうか。 出来上がったものは、”目玉オヤジ!!”一本分だけタバコを消す小さな灰皿がついている。でも、丁寧に造られた秀らしい作品だった。 私はというと、これは内緒にしておきたい。 造った作品は、お店で焼いて色を付けてくれるそうで、1ヶ月後に送ってきてくれることになる。楽しみが出来た。
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