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ハジマリ
この3日間、頭から離れることがなかった彼の言葉と瞳。貰った名刺の連絡先に連絡をして、あの言葉の意味を聞こうか。とまで思ったが、彼にとっては深い意味もなく発した言葉で、むしろ言ったことすら忘れているかもしれない。
基本的に考えすぎることは苦手だ。でも何だか凄く思い出すと心地良い時間。お酒のアテに彼の名刺を眺めてみる。確か29歳だと言っていた。若くして代表さんらしい。
苦労してるんだ。
名前、秀って言うんだ。
秀について想像を膨らませてみる。
ほろ酔いで、睡魔に任せはじめた頃、秀からメールがきた。
「ワカルかな?この間は楽しかった。今日も仕事だったかな?お疲れ様」
たわいもないメール。
何となく、何かを確かめたくなった。
とは、言えメールで返事を返すか思いきって電話をかけるか。声を聞けば何かがワカルかもしれない。名刺に書かれた番号をダイヤルする。
「こんばんは!メールありがとう」
「お~!どうした?」メールでの返事を想定していたのに電話がかかってきたから、少しびっくりしている様子。驚かせることは好きだけど、押した感じで驚かれるのは苦手だ。逆に動揺してしまう。
「何しているかなって思って~」アリキタリな理由を付けてみる。
「そうなん~今から帰るところ。何だ~この間のお願い考えてくれたのかと思った~」
お願い?
そうだった。あの言葉と瞳に惑わされて、忘れていた。
「ゴ-ルデンウィ-クは何するの?」と聞かれたのだった。
「私、子供がいるから、子供と過ごすんだ。」そう、バツイチ子持ちを捕まえて秀は「純粋」と言ったんだ。
「そうなんだ。でも一日だけ俺に時間作ってくれることは出来ない?」
そんなお願いだった。
思い出した時、凄く嬉しくなったんだ。
「うん。一日時間作るつもりだよ。秀君が開いている日はいつかな?」
忘れていた癖に覚えていたかのような返答をしてみせる。
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