ハジマリ

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会話がはずむ。秀のことを少しづつ知っていく。低く穏やかな声は、全てを包みこむような安心感を与えてくれる。 「俺さ先月元カノと終わったとこだって言ったよな」あの日チラっと聞いた話だった。三年交際をしたと言っていた。彼女の家が凄くお金持ちで、本当は許婚がいたのだけれど、その時までというつもりで彼女は秀と交際していたが、秀は別れを切り出されるときまで知らなかったそう。彼女もきっと辛かったのかもしれない。私の元主人もそうだった。その境遇なりの辛さがあるものだ。 「正直言うと、今週末コンパなんだ。別れたときに友達が俺のために段取りしてくれたから、顔出しとかない訳にいかなくて。もう必要ないんだけどな。それだけ、ごめんな。」申し訳なさそうな口調の秀。 「うん。気をつけて行ってきて」ハジマリに気がつかないでいる私は、秀がコンパに行くことを打ち明けた意味も考えず、嫉妬することもなく、答えた。 その夜、ほっとしていた。あの瞳は見間違いじゃなかった。 「おはよう。よく眠れた?」朝1番にきたメールは秀からだ。 仕事の合間に、メールのやり取りをする。夜にはどちらからともなく電話で話す。そうしている間に秀の生活パターンが読めてくる。 秀は今からコンパだ。 「お守りに写真、頂戴?」そんなメール。恥ずかしいと思いながらも、自分の写真を秀へ送る。 「ありがとう!もう大丈夫」そんなやりとりの後、子供の頃に感じた安心感を感じる。 「今から帰るよ」数時間後のそんな電話で、肩をなでおろす。 「もうゴ-ルデンウィ-クまで待てないわ。明日10分でいいから会えない?前まで行くから。」そんな秀の言葉を嬉しく思う。翌日の約束を交わす。 夜の秀との約束を楽しみに軽い足取りで帰宅をする。仕事が終わり、保育園へ二人の子供を向かえに行き、家へ帰る。団地の駐車場へ車を止め、自分の棟へ向かう。 「こんにちは」声をかけてきたのは背が高く綺麗な女の人と同じ歳頃の同じ保育園の制服を着た二人の子供。毎朝見かける親子。同じくらいの時間に仕事の制服を着て子供を連れ、出掛けていく。同じシングルマザ-だと前から勝手に思っていた。
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