始まりの語り

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そして、不知火の友人であるこの僕も、ゆかいな仲間たちの一人なのだろう。 別にどこかがずば抜けているとか、特別個性的とかではないけれど、 普通だからこそ、 普通が故に、 普通がために、 そのクラスでは一風変わった存在なのだ。 秀才の中に放り込まれた普通の人というのは、天災にして個性的なのだ。 いや、この場合の個性的と言ってしまうと語弊を招くかもしれないな。 普通と定義された個性もあったもんじゃない。 だがしかし、周囲が異色過ぎると、逆に普通が光って見えてしまうものなのだ。 とにかく、不知火の言う《おもしろいこと》は、僕も不知火も何度か経験している。 例に挙げた彼ら彼女らが、その主人公でありヒロインであるのだ。 この物語を彩るのは、決して僕ではない。 敢えていうなら僕は、《傍観者》に過ぎない。 だから断らせてもらう。 この物語は、フィクションではあるけれど、決して僕の物語ではない。 僕は語り部であり、ナレーションであり、端役でしかない。 もっと正鵠を射るなら、不知火の付属品とでも言える。 その役どころを他の人に譲ってしまえば、僕は本当に用無しなのだ。 しかし仮にもだが、一億円のオファーがあろうとも、ヘッドハンティングがあろうとも、僕はそれらを丁重に辞するだろう。 なぜなら僕は、不知火の友人であり、彼の隣にいることに満足しているからだ。 だから僕は、この立場を譲ることはない。
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