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「デーブ、まだ春だぞ」
窓際最前列の男子生徒が大久保先生をからかい、どっと笑いが起こった。
因みにデーブというのは、担任教師の愛称だ。
由来はとてもわかりやすい。
大久保太。
おおくぼふとし。
おおくぼデブ。
デブ、デブ……。
デーブ。
そしてデーブ大久保という流れだ。
「デブに季節などというのは存在しない。冬も春も秋も夏だ。そして夏は夏の二乗といったところ。デブの発汗量を甘く見るなよ」
「うわっ。とうとうデーブが開き直った」
「以前から開き直っておる。転校生の自己紹介を聞いてやれ」
軽く受け流すデーブ。
そして全員の視線が教壇に向く。
少女は二人の掛け合いをくすくす笑って眺めていたが、皆の視線を浴びて笑みを消した。
「父の仕事の都合で転校してきました、千坊紗智です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「えーっと、他には、そうだな……」
「じゃあ、好きなものと嫌いなもの、後趣味ぐらいを紹介してもらおうかな」
何を言おうか困惑している転校生に、デーブは助け舟を出した。
「好きなものは猫です。あの柔らかい肉球がとっても可愛らしいのね。嫌いなものは……」
言葉を切って、チラリとデーブに目を遣る。
なるほど、回答が読めた。
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