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「あぁクソッ!岡本のヤツ、マジでウザくね?ナオヤ!」
「…………」
学校からの帰り道。
先ほどから、岡本潤平の悪口ばかり言っている源二郎。
一方、直哉は、ずっと黙ったままである。
それを不思議に感じながらも、源二郎は怒りに任せてわめき続けていた。
そして、二人は、二人が別れる道となるT字路へ差しかかった。
源二郎が言う。
「じゃーな。あんま気にすんなよ、岡本が言ったことなんて!」
すると源二郎は、直哉の口から、予想だにしていなかった言葉を聞くことになる。
「僕、気にしてないよ」
「えっ?」
目を丸くする源二郎。
直哉が嘘を言っているようには見えなかった。
直哉は言う。
「岡本くん、なんだか様子がおかしかったから」
「はぁ!?」
思わず、源二郎は、肩に担いだバッグを落としそうになった。
「あのなぁナオヤ!どう斜めに見たって、岡本はガチでヤなヤツだろ!?」
「う、ん……そうかなぁ」
「ったりめーだ!賭けてもいいくらいだっつーの!」
「…………」
また、翌日。
源二郎は、いつもより早く登校した。直哉のことが気になっていたからである。
しかし、どうにも早すぎたのか、まだ彼の姿はなかった。
走って暑くなったので、紺色のブレザーを脱ぎつつ、辺りを見回す源二郎。
すると、ある男が目に入る。
「相川」
野球部に仮入部していた、相川であった。
なにやら机に座って読書をしているようだが、源二郎は、構わず話しかける。
「よー相川!なんの本読んでんだ?」
「…………」
「なあ、聞いてんのか?」
「…………」
相川は、まるで源二郎を空気と認識しているかのように、意に介さない。
また、その表情からは、なにを考えているのか全く読み取れなかった。
うろたえる源二郎。
「ちぇっ、変なヤツ」
とだけ吐き捨て、源二郎は、風を受けて涼もうと窓際へ行く。
そのうちに、教室のドアの開く音がした。
直哉か?と思い、源二郎は、振り返って目を向ける。
直哉ではなかった。背が低く、体も細めの少年である。
「あれ、たしかお前……」
源二郎が言った。
その言葉に敏感に反応し、少年は源二郎へと歩み寄る。
「1組の松田俊行。キミ、青木源二郎くんだよね」
「お、おう」
「ちょっと挨拶に来たんだ。昨日はすぐに帰っちゃってたから」
松田俊行は、岡本や相川と違い、人当たりの良さそうな少年であった。
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