二番目の男

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俊行が言う。 「キミ、野球歴は3年だったっけ?それにしては、ずいぶん上手じゃないか」 「いや、なに言ってんだ、いきなり。……お前、なかなか分かってんじゃん」 照れる源二郎だが、まんざらでもない様子である。 「なにしろ、野球じゃこの俺が1ば……」 「まぁ、相川くんほどじゃないけどね」 「あ!?」 途端に、源二郎は怒りをあらわにした。 間近にいる俊行に向かって、大声を出す。 「なに言ってんだよ!俺のが上手いに決まってんだろっ!」 困るのは俊行のほうである。 「おいおい、そんないきなり怒鳴られても。事実なんだからさ」 源二郎は、収まらない。 「ふざけんなって!俺はリトルの地区大会で優勝してんだぞ?相川なんて、どのチームにもいなかった……試合に出てないってことは、上手くないってことだっ」 これに、俊行は苦笑した。 「あれ、知らないの?相川くんは、去年まで東京にいたんだよ」 源二郎の眉がピクッと動く。 「んじゃ、埼玉に来たのは小学校を卒業した後なのか」 「そうだよ。まさか、リトルやってたのに、相川くんのことを知らないなんてね」 皮肉まじりに言う俊行に、源二郎は、ややむくれた。 相川へと視線を移しつつ、源二郎が聞く。 「じゃあ、いったいどーいうヤツなんだよ。相川って」 俊行は、目を細めて、答えた。 「相川くんは……去年のリトルリーグで全国制覇を成したチームの、レギュラーだったのさ」 「ぜ、全国だぁ!?」 仰天する源二郎。 無理もないだろう。地区大会と全国大会では、レベルの差がありすぎる。 俊行が、付け加えるように言う。 「彼は不動のトップバッター。出塁率はダントツで全国一。9割を越してたらしいね」 源二郎は、ますます驚く。 「き、9割とか……ありえねーだろ」 「天才、ってやつだよ。俺も信じたくないけどさ」 ショックだった。 源二郎には、ショックだった。 野球では自分が1番のはず。もちろん、上に何人もいるであろうことは理解していたつもりであったが、源二郎は、どこかで、自分こそが最高のプレーヤーであると思っていた。 ところが、現実に、自分以上の実力を持っている人間が現れてしまった。 『野球でだけは1番』……そんな思いが、一瞬にして打ち砕かれたのである。
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