二番目の男

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「ね、ゲンちゃん」 「あ!?」 いきなり話しかけられて、青木源二郎は、思わず大声で返してしまった。 クラスのみんなが、こちらを見る。 知らない顔も多いし、ちょっとだけ恥ずかしくなって、源二郎は頬に熱を感じた。 「……すんません」 軽く頭を下げると、左隣に座る女を睨む源二郎。 元はと言えば話しかけてきたコイツが悪い、と思っているのである。 「ゲンちゃん?」 などと間抜けた声で言ってくるこの少女は、源二郎の幼なじみ、結希だ。 苗字は、非常に難しい漢字であるので、なかなか人には覚えてもらえない。 で、その結希が言う。 「ゲンちゃん。作文、書き直しなよ」 「あん?」 「だって、先生が見るんだよ?そんなふざけた書き方じゃダメだよ」 言われて、源二郎は、机の上の原稿用紙に目を向けてみる。 たしかに、彼女の言うとおり、一見ふざけた書き方かもしれない。そこには平仮名のみで彩られた文面が広がっているのだから。なにしろ、このほうが漢字を交えるより文字数が稼げるのである。 中学校生活における初の課題、作文。その作業に課せられた条件が「原稿用紙十枚分」だった。 誰でも分かるであろうが、明らかに多い。そうでもなければ、こんな手の込んだズルをする源二郎ではない。 だから、口出ししてきた結希にイラつきもする。 「お前は勝手に人の作文見てんじゃねーよ」 彼女は、言い訳がましく応える。 「だって、目に入ったんだもん」 「次見たら殴るかんな」 「それは、やだよ……ゲンちゃん」 眉をひそめる彼女を見て、源二郎は、チッと舌を打つ。「ゲンちゃん」はそろそろやめてほしかった。
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