二番目の男

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それから、なんとなしに辺りを見回す源二郎。 すると、クラスメイトたちが異様な速度でシャーペンを走らせているではないか。 それというのも、担任教師が教壇の上で目を光らせているからである。 あの教師は、入学初日に「真面目な生徒は通知表が良くなりますよ」と高らかに宣言した。だから、級友たちは、一生懸命作文に取り組んでいるのであろう。 入学して間もないからというのもある。 とはいえ、原稿用紙十枚分はおかしい。いや、むしろ、この学校自体がおかしいと言える。 教員がハゲばかりだとか、水道がサビついているだとか、学校の不思議が十四個くらいあるだとか、ツッコミどころは様々だ。 なにより、学校名が、「市立有名中学校」である。笑うしかない。 正しくは、市立『ありな』中学校。略称は、名中と書いて『なっちゅう』だ。なぜ『有中』とならないのかは不明だったりする。 源二郎が在籍するのは一年二組で、それを知った時の源二郎は、「またか」とため息をついたものであった。 なぜならば、小学生時代から数えて七年連続の二組だからだ。ちなみに、出席番号もずっと二番。 のみならず、テストの結果や五十メートル走のタイムから、バレンタインデーにもらうチョコの多さに至るまで、全て二番である。 そして、中学校でも、さっそく「二」に当たってしまった。   そんな源二郎ではあるが、学校生活はとても楽しみにしていた。新しい友達、新しい授業科目。考えただけで、胸が踊る心地なのだ。 最も期待してやまないのは、部活動であった。 スピーカーから、三時限目の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。 平仮名だけの作文を提出すると、源二郎は自らの席に戻った。 やがて、帰りの会が始まる。それは、担任による悪魔のごとき長話の訪れでもある。 「えー、君たちが入学してから三日が経ちました。君たちは桜と共にやってきましたが、桜はかつて武士に好まれたことから……」 大して面白くない話でも、一心不乱に耳を傾けるクラスメイトたち。 もともと真面目な結希も、彼らにならっている。 そんな中、源二郎だけは、耳を傾けようともしない。シャーペンを握り締め、ひたすら、席を立ちたい衝動に耐えている。 これが済めば、部活動見学があるのだ。 「さようなら」と同時に源二郎が駆け出したのは、言うまでもなかった。
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