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翌日。
青木源二郎は、グローブとボールを持って、学校に向かっていた。
まだ仮入部すらしていないが、なんとなく持ち歩きたかったのだ。
隣で歩く結希が、なにやら話しかけてきている。
なんかウザいので無視しつつ、源二郎は、左肩にぶら下げたエナメルバッグを持ち直した。
「あっ?」
意識せずに、源二郎は声をあげる。
一年二組の教室に着いた源二郎の目に飛び込んできたのは、昨日の太った少年であった。
(同じクラスだったのか)
と思い、その少年に近づく源二郎。
「よう!お前、昨日、野球部見学してたよなっ?」
言うが早いか、源二郎は、少年の机に手を置いた。
動揺する少年。
「あ、いや、あの……」
「俺は青木源二郎。お前、なんて名前?」
「……酒井直哉……」
「ナオヤ。よろしくな」
「う、うん」
「ナオヤも、野球部入るんだろ?」
源二郎が聞くと、酒井直哉は、うつむく。
呼吸も荒い。
源二郎は、いぶかしげに直哉の顔を見つめた。
「え、入んねーの?」
「…………」
丸坊主である直哉の頭に、うっすらと汗がにじむ。
「ぼ、僕、親に「痩せるから野球部に入れ」って言われてて、見学はしたけど……」
悲しそうに言う直哉。
「や、やっぱり無理だよ。みんな上手いし、僕、野球なんてやったことないし……それに、あんなにツラそうな練習、僕に耐えられるわけないし」
「で?」
「え……」
源二郎は、直哉を見下ろしながら、怒気すら含めた語調で言い放つ。
「お前は野球が好きなの?それとも、嫌いなの?」
今度は戸惑う直哉。
「え、き、嫌いじゃないけど」
「痩せたい?」
「う、うん、まあ……」
「んじゃ、やろうぜ」
「えっ」
「つか、やるしかなくね?野球」
源二郎は、おもむろに、その顔を直哉に近づけた。
「練習なんてなー、どの部活もキツいんだよ。そんなんイチイチ気にしてたら、お前一生痩せられねーぞ?」
「…………」
「野球に少しでも興味あるんだったら、入ればいいじゃん。な!」
「……できないよ。僕、ボールを投げたことも、キャッチしたこともないんだから」
途端に、源二郎が笑顔になる。
そして、直哉の肩を叩きながら、言うのである。
「心配すんなって!俺が教えてやるからさ!」
「は?」
「そうだ、昼休みにキャッチボールしようぜ!な、キャッチボールっ」
源二郎は、さりげなくグローブを2つ持っていた。
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