二番目の男

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そして、昼休み。 サッカーやバスケなどをする生徒たちで賑わうグラウンドへ出ると、源二郎と直哉は、五メートルほどの距離を空けて、向かい合った。 オドオドしている直哉に、源二郎が言う。 「おい、グローブ構えろよ」 「う、うん」 震える手を眼前に出す直哉。 「バカ、それじゃボールが見えねーだろ?グローブは胸ぐらいの高さで構えるんだよ」 指示する源二郎に従い、直哉はグローブを構え直した。 「じゃ、いくぞー!」 源二郎は、綺麗なフォームでボールを投げる。 山なりに飛ぶボールであったが、直哉はそれを弾いてしまい、捕ることができなかった。 地面を転がる軟球を見やりながら、源二郎が言う。 「目ぇつぶっちゃってんだよ、捕る時に。ボールを最後まで見なきゃダメだ」 「うん」 直哉は、頭を下げた。 そういう、直哉の素直なところを、源二郎は好きになり始めていた。だから、丁寧に教えてやろうと思う。 「もっかい、いくぞ。……それっ」 再び、山なりのボールが、源二郎の手から放られた。 またも、直哉はそれをキャッチするのに失敗する。 ばつが悪そうに「ごめん」と謝る直哉に、源二郎は、真剣な顔つきで話す。 「ボールは見れてたけど、グローブを閉じるのが早すぎだ。遅い球なんだから、むしろ閉じなくたっていいんだぞ。ポケット……親指と人差指の間らへんのくぼみで、『受けとめる』ってことを意識しろ」 三度、ボールを投げる源二郎。 ……すると。 軟球の、グローブに収まる心地よい音が、二人の耳に届いた。 直哉が、驚きと喜びに目を見開かせて、言う。 「と、捕れた……!僕、キャッチできたよ、青木くん!」 ニッコリと笑う源二郎。 「へへっ、けっこう簡単だろ?」 「ううん。それもあるけど、青木くんの教え方が上手なんだよ」 「お、マジで?」 「うん。小学校の時、野球やってる人から教わったことがあったけど、青木くんのが一番分かりやすかったから」 「……一番!」 源二郎は、その言葉を聞いて、胸を躍らせた。 (やっぱ俺って、野球じゃ一番なんだな!) 常に誰かの後ろだった源二郎にとって、一番という言葉には特別な意味がある。 直哉の捕球成功に加えて、一番と言われたことが、源二郎の顔に満面の笑みを浮かばせたのである。 一度うまくいくと、直哉は何度でもボールを捕れるようになり、二人は昼休みが終わるまでキャッチボールを続けていた。
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