661人が本棚に入れています
本棚に追加
「ゲンちゃんっ」
通学路を歩いていた源二郎に、結希が駆け寄る。
「ゲンちゃん、おはよう」
明るい笑顔で挨拶をする彼女に、源二郎は、冷めた気持ちで視線を向けた。
(朝からそのテンションはウゼーんだよ)
相手は幼なじみの女の子なのに、彼女に対して、源二郎はやたらと冷たい。
挨拶も無視した彼であるが、結希は笑顔を崩していなかった。
「ね、ゲンちゃん。昨日、キャッチボールやってたよね?」
「あ?なんで知ってんだよ」
「私、いっつもゲンちゃんのこと見てるもん」
「ストーカーかお前は!気持ちワリぃな!」
「ゲンちゃん、酒井くんに教えてあげてたんでしょ?」
「ゲンちゃん言うな。次言ったら殴る」
「ゲンちゃん、ひどい……」
その瞬間、源二郎の『こめかみグリグリ攻撃』が炸裂した。
結希は、その痛みに表情を歪める。
「い、い、痛いよ~!」
「るせー!殴られないだけありがたいと思え!」
『男女平等』を唱える青木源二郎、相手が女だろうと容赦しなかった。
教室に着くと、源二郎は真っ先に、酒井直哉のもとへ向かう。
「ようナオヤ!おはよー!」
「おはよう、青木くん」
優しげな表情で返す直哉。
源二郎が言う。
「呼び捨てでいいって!」
困る直哉。
「いや……あの、僕、そういうの苦手だから」
「だったら、下の名前で呼んでくれよ。友達だろ?」
すると、直哉は微笑んだ。
「じゃあ、源二郎くんで」
「おう!長くてゴメンな!」
二人は、キャッチボールを通じて仲良くなったのである。スポーツにはそのような魅力もあるのだ。
源二郎と直哉は、それからも毎日、昼休みと放課後にキャッチボールをしていた。
最初のコメントを投稿しよう!