二番目の男

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数日後。いよいよ、部活動の仮入部期間が始まった。 源二郎からしてみれば、ほぼ本入部である。 ために、朝から落ち着かない様子であった。 放課後、直哉を伴い、源二郎はジャージ姿でグラウンドに向かった。 仮入部希望の1年生たちは、ホームベースの辺りに集められる。 「えーっと、それじゃあ、クラスと名前、それから野球歴とポジションも言ってもらおうかな」 顧問の矢沢先生が、弱々しく言った。 クラスごとに横一列に並んだ1年生たちは、右から順に自己紹介を始める。 「1年1組、松田俊行です。野球は5年間キャッチャーをやってました。よろしくお願いします」 「1組岡本潤平~。6年間ずっとピッチャーだし~。キャハッ、マジウケんだけど」 「1年2組、相川。野球歴4年。ショート」 「1年2組で青木源二郎!野球歴3年のセカンドっス!」 「い、1年2組の、酒井直哉です。野球歴は、……ありません」 「キャハッ」 突然、岡本潤平が、あざけるように笑った。 短く、しかし綺麗に整えられた黒髪をいじりながら、彼は。 「ウケんだけど!え、なに?やったこともないのに野球部入っちゃうワケ?どんだけだよ~!」 キャハハハハ、と耳障りな高笑いをする。 「てめッ!」 うつむく直哉をチラリと見つつ、源二郎が岡本の胸ぐらを掴んだ。 「ふざけたこと言ってんじゃねーぞ!初心者でなにが悪いってんだ!?」 岡本は、鼻で笑う。 「は?なんでお前が怒っちゃってんの?マジ意味わかんね~」 「この……ッ」 「ってかぁ、コイツみたいなデブが野球部入ったって、続くワケなくね~?お前、友達なら止めてやればぁ?じゃないと死んじゃうかもよ~!?キャハッ」 「んだと!……てめーッ!」 すかさず、3年の先輩が、両者の間に割り込んだ。 「おい、1年!うるさいぞ!」 やむなく、源二郎は手を放す。 「くそッ」 「はっ、熱くなってんじゃね~よ」 「ぐ……ッ!」 「げ、源二郎くん……」 声にならない悔しさで、歯を噛み締める源二郎であった。 やがて、残りの自己紹介が終わると、野球部は練習を開始した。 1年は、軽くキャッチボールをしたり、ノックを受けたりする程度である。 ノックでは直哉が度々ミスをし、その都度、それを馬鹿にする岡本に源二郎が突っかかる……。その繰り返しで、あまり気持ちの良い光景ではなかった。
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