桜舞散る季節~序章~

4/5

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
今時にしては、珍しくキッチリと真ん中で分けた髪を更にキッチリと編み上げたおさげの額から、汗の雫が光って見える。それをハンカチで拭いながら、少女はゆっくりと叶輝の元へと歩み寄って来た。  「えーと…同室の…葛城美紗子ちゃん?どうしたの、慌てちゃって」  叶輝は記憶を手繰り寄せて、彼女の名前を思い出しながら、にこりと優しく微笑んだ。  この生徒は、自分と寮室の同じ生徒で、昨夜のうちに挨拶を済ませている。  朝は、叶輝が起床した時には既に居なかったものだから、そこまで深く打ち解けても居ないが、この新しい学舎で唯一叶輝が見知っている生徒だ。  「朝は、瀬川さんなかなか起きて下さらなくて、その、置いていってしまってごめんなさい……」  「あぁ、気にしないで。私は寝起きが悪いんだ。…でも、もしかして心配をかけてしまった?」  深く頭を下げる葛城の頭を柔らかく撫でて、謝罪する彼女の気持ちを和らげようと俯いた顔を覗き込む。  叶輝に悪気等無い事は判って居ても、その視線に葛城は俄かに頬を染めた。  トクトクと早鐘を打つ心臓を治めようと、深呼吸をして葛城は姿勢を整えた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加