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「朝食には間に合ったかしら…その、ここに来る迄に、パン屋さんを見付けたから、ミニクロワッサンを幾つか買って来たの。朝起こせなかったお詫びに、食べて?お願いします」
鞄の中から、袋を取出して、叶輝に押し付けるそれからは、バターと甘い薫りがして、叶輝の心が揺れ動く。
「いいの?確かに、朝食には間に合わなかったけれど…」
朝食の時間が定められている寮の初めての朝に寝坊してしまったのは、叶輝の自己責任なのだから、葛城が気に病む必要は無いのだが、空腹にクロワッサンは魅力的だった。
「あぁ、ほら、時間が無くなってしまうから早く食べて?」
前方で、何処かのクラスの集合の笛の音が聞こえる。どうやら葛城のクラスの号令らしい。それを聞いて慌てた彼女は、叶輝に無理矢理袋を押し付けて、手をふって踵を返した。
「ありがとう!葛城さん、良いクラスメイトに出会えますように」
叶輝の声に、葛城は振り返り笑顔で手を振った。
「瀬川さんも!代表挨拶楽しみにしてるから。帰ったらお互いのクラスの話をしましょう!」
葛城が人混みに紛れて見えなくなる頃には、叶輝は袋の中のクロワッサンをくわえながら、もう一度本を開いていた。
バターをたっぷりと効かせたクロワッサンは、一口サイズでおやつのように食べてしまえる様な、甘さ控え目な味だった。
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