第1章バニラの薫りとアールグレイ

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 会長は自身の黒く艶のある肩まで伸びた髪の毛先を軽く摘んで弄びながら、クイ、と首を傾げる。  その瞳には亜麻色の柔らかい癖毛の眼鏡の生徒、瑞恵が映されていた。  「そうね、よく図書室に来てくださるから…」  瑞恵は、生徒会副会長を勤める傍らで、図書室の管理も担っている。 瀬川叶輝は、ほぼ毎日のペースで放課後には図書室に顔を出していた。  「読書が好きなタイプには見えないけれど、少し意外なのね」  「本も好きみたいだけれども、きっと違う目的があるのだわ」  瑞恵はクスリと笑って、遠くで困り顔の叶輝を眺める。瑞恵の知っている瀬川叶輝と言う生徒は、女性にとても優しい。お願いされれば断われずに面倒も引き受けてしまうし、寮でのお茶会のお呼びも、断われずに参加しているのは、生徒会会計の湯浅菜摘から聞いて知っている。  「瑞恵、それじゃ解らないわよ」  「ごめんなさい。瀬川さんは、お一人で静かになりたいから図書室にいらっしゃるのだと思うわ」  読書をするだけならば、借りて部屋で読む事も出来る。それをせずに図書室に閉館ギリギリまで居るのは、その時間だけは誰も邪魔して来ないからだ。  「瀬川さんは、女性のお誘いを断るのが、だいぶ苦手みたいなの」  ふわり、と微笑んだ瑞恵を見て、生徒会長は小さく眉をしかめた。  「貴女も、彼女みたいなのがタイプ?」  「まさか!私が好きなのは、敦子、貴女だけだわ」 瑞恵は、妖精のような笑顔で生徒会長、敦子を見つめる。それを見て敦子は満足そうに小さく頷いた。  「勉強が出来て、人望が厚くて、頼みを断るのが苦手な、そんな人材が欲しいわね」  敦子の視線は、またもや叶輝に注がれる。含みのある表情で、小さく呟いた。  「あら、まかせて?私頑張ってみるわ」    瑞恵は、小さな悪戯を思い付いた少女のように、両手をパンっと胸元で合わせて、自信満々に敦子に宣言した。
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